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神戸地方裁判所 昭和55年(行ウ)6号 判決

原告 安藤睦子 ほか四二名

被告 兵庫県知事

代理人 浅尾俊久 山口一成 佐々木達夫 ほか二名

主文

本件訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

被告が昭和五四年一二月二一日になした告示第三〇六七号六甲道駅前地区第一種市街地再開発事業都市計画決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

(本案前の申立)

主文同旨

(本案の答弁)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二請求の原因

一  当事者

(一)  原告

原告らは、いずれも請求の趣旨記載の六甲道駅前地区第一種市街地再開発事業(以下、本件事業という。)の都市計画(以下、本件都市計画という。)の対象である国鉄六甲道駅北側駅前地区に土地又は建物を所有し、もしくはその賃借権を有するものであり、右計画の実施により直接にその生活環境、財産、営業等に甚大な影響を蒙る立場にある。

(二)  被告

被告は、昭和五四年一二月二一日都市計画法第一八条第一項に基づき、本件都市計画を決定し、同日これを告示した。

二  本件都市計画の内容

計画書によれば、国鉄六甲道駅の北側の、東西を市道八幡線と六甲道駅前線、南北を同駅と市道神若線に囲まれた約一・三ヘクタールの地区を対象に都市再開発法に基づく市街地再開発事業を施行することとし、右地区内の約一七〇軒に及ぶ商店、住宅を立退かせた後に二二階建高層ビルを建設し、約三八〇〇平方メートルの駅前広場を作るものとしている。

なお、本件計画はこの後昭和五五年末までに事業計画を決定し、同五七年二月着工の予定とされている。

その他公共施設の種別、配置、規模、高層ビルの規模、用途等は別表<略>のとおり定められている。

三  本件都市計画策定の経緯

(一)  旧計画の策定

本件都市計画は、形式的には昭和五四年一二月の決定であるが、実際は昭和四四年に被告が一旦計画決定したものの、住民・市民の反対により事実上廃棄され、正式にも昭和五四年三月期限切れにより効力を喪失した計画を、住民の意向を無視して突如復活させたものである。

すなわち、本件都市計画と内容をほぼ同じくする計画が、昭和四四年三月二八日、「公共施設の整備に関連する市街地の改造に関する法律」(以下、市街地改造法と略称する。)に基づき、神戸国際港都建設計画六甲地区市街地改造事業として都市計画及び事業計画(以下、旧計画という。)の決定がなされ、同日付建設省告示第七六六号として告示された。この旧計画は、六甲道駅の北側及び南側の両方を対象にしており、南側を第一地区として先に着工することとし、北側は第二地区として施工は保留することとされた。

ところで地元の住民は、前年の昭和四三年七月住民全員による六甲道駅北都市改造協議会を設立し、神戸市との交渉にあたつていたが、右計画決定は事前に住民には全く知らされないまま突然になされ、住民が知つたのは一か月以上も後である。ちなみに、神戸市が建設計画を公表したのも都市計画決定の僅か九日前である。神戸市や被告が旧計画の決定を急いだのは、市街地改造法が昭和四四年六月新しく都市再開発法が制定されることによつて廃止されることが明らかであつたので、要件が一般に緩やかであつた旧法を利用しようとする「かけ込み」決定であつたためである。

旧計画の策定を知つた住民らは計画の撤回を求めて同年七月六日一〇〇余名が出席して市との交渉をもち、同月一九日には「永手町四丁目市街地改造反対同志会(以下、単に同志会という。)」を結成し、同月二三日には住民の大多数にあたる一一〇名の反対署名を建設大臣に、八月一日には神戸市長にそれぞれ提出した。

(二)  旧計画の問題点

神戸市が旧計画を実施する理由として挙げていたことは、時によつて重点が異なるが、おおむね国鉄が昭和四三年から進めていた高架化工事のための仮線敷地を確保する必要及び駅前広場・道路の整備並びに六甲道駅前の副都心化である。

(1) しかし、まず仮線敷地の確保は六甲道駅南側だけの問題であつて、北側は関係がなかつた(その後高架化工事は昭和五一年に完了している)。

(2) 市街地改造法における駅前広場の設置は、一日の乗降客が五万人であることを基準にしていたが、六甲道駅の乗降客は当時約四万人しかなく、右基準に充たなかつた。なお、現在(昭和五三年度一日平均)は、三万七〇〇〇人であり、これより更に減少している。

(3) しかも、市街地改造法は、おおむね商業地域に適用することを予想していたが、駅北側は商店も混在するものの六割は住居であり、その適用は慎重になされるべきであつた。

(4) 六甲道駅付近を神戸市の副都心にするという構想については、まず都心の三宮に近すぎること、東西に走る阪急、阪神にはさまれた狭い区域であること、六甲道に集めうる人口は僅かであり、将来も増加の見込みがないこと等から、副都心にするという目的については、多くの住民が疑問を懐いていた(駅南側の再開発が終つた現在、その実現の一層困難であることが明らかになつている)。

(5) 駅南地区の場合は、広大な元深田寮跡地(六二二二平方メートル)が含まれていたので、再開発により宅地面積が増加し、開発利益も生じることが予想できたが、駅北地区はそのような特別の土地もなく、宅地面積は大巾に減少し、事業として採算のとれる見込みがなかつた。

(三)  旧計画の延長と住民の蒙つた損害

旧計画、とくに駅北側の計画は右に述べたように問題が多く、それだけ住民の反対も強かつた。一旦計画を発表した被告や神戸市も計画を棚上げにする風であつた。ところが神戸市と被告は旧計画の事業施行期間(五年間)が昭和四九年切れると、同年一月兵庫県告示第一六九号により施行期間を更に三ヵ年延長した。そこで、住民らは今日までくり返し被告、神戸市、建設大臣等に対し計画反対・再延長反対の陳情を続けてきた。被告、神戸市は、昭和五二年延長期間の三ヵ年が切れると駅南側の事業が遅れていることを理由に、またもや二ヵ年の再延長を決定した。しかし、結局旧計画は昭和五四年三月三一日、一〇年の最終期限も終了し失効した。

原告ら住民は、一〇年間もの長きにわたつて都市計画法規の制約をうけてきた。例えば、店舗をビルに建替えたいと思つても三階以上の建物及び鉄筋コンクリートの建物は建てられず、地下構造も許されなかつた(都市計画法第五三条、第五四条)。いつ計画が実施されるやもしれないから、建物の修理は見送ることになり、店舗の場合は改造・新築の機会喪失による営業上の損害もうけた。また、下水道は今日の市民生活では不可欠のものとされ、当然六甲道駅付近も古くより下水道が整備されているにもかかわらず、神戸市は本件計画対象区域内では水洗便所をこれまで全く許可していない。これは、下水管が使用できる区域では水洗化をはからなければならないとしている下水道法及び神戸市下水道条例に違反するだけでなく、住民に対する追い出し策といわざるをえない。

四  本件都市計画決定の違法性

(一)  本件都市計画の内容の違法性

1 本件都市計画は、都市再開発事業の要件を定める都市再開発法第三条第三号、第四号を充足しない。

(1) 同条第三条は、「当該区域内に十分な公共施設がないこと、当該区域内の土地の利用が細分されていること等により当該区域内の土地の利用状況が著しく不健全であること」をあげている。

ところで、本件都市計画によれば、本件事業で新設される公共施設は、道路(八幡線、六甲道駅北側広場、神若線、六甲道駅前線)及び下水道である。しかるに、八幡線の拡幅は用地買収方式により既に解決しており、本件事業は必要でない。また、神若線の拡幅は、住民に配られた右概要では整備済と記載されているように拡幅は完了しており、何ら再開発事業の理由とならない。六甲道駅前線は現在幅員八メートルであるのを、九六メートルの区間のみ一五メートルに拡幅しようとする計画であるが、右区間のみを拡幅してもそれより北側は旧市電道まで幅八メートルの商店街路であり、南側も東海道線以南は八メートルであつて再開発事業を必要とする程の理由となり得ない。また、駅前広場については、前述のとおり六甲道駅の乗降客は現在三万七〇〇〇人程度であつて、増加の傾向もないうえ、駅南側には既に広場が設置されており、新たな再開発事業でもつてさらに広場を設けるだけの必要性はない。下水道の整備は、前に述べたように再開発促進のために未施行にしてきただけのことであるから、再開発事業を施行せずとも別途に実施できる事業である。

このように本件都市計画は必要がない、もしくは必要性の薄弱な公共施設を法の要件を充たすためにことさら事業の理由としているもので、同条第三号前段の要件を充たさない。

(2) また、本件都市計画の対象区域における土地利用は決して「著しく不健全」ではない。本件地区における店舗と住居の割合は九四対一三三で住居の方が多く、店舗も日用品を扱うものが大半で比較的閑静な商住混合の地域である。神戸市が昭和五〇年に行なつた六甲道駅周辺購買実態調査でも、本件地区の商店に買物に来る客は徒歩で来る人が大半で、商品も食料品、下着類などの日用品、消耗品である。買回り品は電車で五分のデパートや、専門店の多い三宮・元町地区で購入することに何ら不便を感じておらず、仮りに本件都市計画のような高層ビル化がなされれば、このような日用品中心の小規模経営の存在は許されなくなる。けだし、第一には日用品店が高層ビルの二階以上に入つても営業が成りたたないこと、第二にスーパー、大手チエーン店との競合が避けられないが、いわゆるオーバー・シヨツプとなり、零細な商店が圧迫されること、第三はビル維持管理費に伴う非採算化である。このことは、既に市街地改造事業により駅南側に出現したメイン六甲や、六甲道駅構内にできた商店街チヤオのテナントが売上げが延びず、経営に苦しんでいることから容易に推認しうる。

従つて六甲道駅前地区の地域性に鑑みれば、小規模商店が並ぶ現在の土地利用が「著しく不健全」とは到底いえないのである。

(3) さらに、同条第四号は、「当該区域内の土地の高度利用を図ることが当該都市の機能の更新に貢献すること」をあげるが、本件事業が「神戸市の都市機能の更新」に貢献するとは考えられない。

右規定は、昭和五〇年改正されたものであるが、その規定の意味は過度集中した東京や大阪のような超大都市の都市構造を一心型から多心型の都市形態に再編成すること、あるいは住工混合に形成された密集市街地において工場等の分散再配置(工場の疎開と跡地での高層住宅の建設等)を行なうことにある。しかし、六甲道駅前地区にたかだか本件事業程度のことを施したとしても、六甲道駅地区に集まる人口、産業が将来増大して、六甲道駅前が副都心になるとは到底考えられない。けだし、国鉄六甲道駅の乗降客はこの七、八年の間全く増加しておらず、前記メイン六甲やチヤオが出来たあともむしろ減少気味にあること、神戸市の商業の中心地である三宮に極めて近いこと、メイン六甲、チヤオともに商店の売上げが伸びていないこと、六甲地区周辺の人口が増大することも考えられないことより明らかである。

2 本件都市計画は、新しく保留床を取得するであろう大手スーパーや銀行あるいは少数の既存商店を除き、大半の商店経営者、住民に対して次のような人格権、財産権、環境権の侵害をもたらすことが明らかであるから、本件都市計画自体違法であるといわざるを得ない。

第一は、六甲道駅前地区において、これまで他の都市や地区でみられたのと同じ再開発を行なうならば、前述した理由から日用品中心の小商店や借家人等を含む多くの住民は離散せざるを得ないであろう。(神戸市が西の副都心にするという長田区大橋地区の市街地改造事業では八割が離散したと言われ、三宮地区ではビル内の商店の不振からビル管理会社が倒産している。)

第二は、神戸市は既に原告ら所有の土地の評価を明らかにしているが、それによると原告ら権利者が新しいビルに同じ面積のまま入居するためには、数百万円を新たに負担せざるをえないことが現段階で明らかになつている。すなわち、神戸市は将来権利変換手続において都市再開発法第八〇条が定める「近傍類似の土地、近傍同種の建築物の取引価格等を考慮して定める相当の価額」という基準をいわば無視して権利変換を行なうことを明らかにしている以上、そのような市街地再開発事業を予想する都市計画決定は現段階で既に違法として取消しを免れない。

第三は、二二階にも及ぶ高層ビルは、他でも指摘されているように、火災、地震、犯罪等のビル災害の不安があり、今日では高層ビル化が必ずしも良好な都市環境の育成に資するものでないことも明らかにされている。しかも、六甲道地区という古くからの落ち着いた市街地に、周囲に例をみない二二階もの高層ビルを新たに建築して、一層その人口密度を増大させることは、都市再開発法第四条第二項第二号にいう「(都市計画は)当該区域が……良好な都市環境のものとなるように定めること」という要件に逆に違背するものといわざるをえない。

(二)  本件都市計画決定の手続上の違法性

1 住民の同意を条件とする約束に違反している。

市街地の再開発事業は、行政行為のなかでも最も住民参加が必要とされる一つであるといわれる。それは、再開発事業は住民の財産、生活、営業を根本的に変化させてしまうだけの影響力をもつ事業だからである。そのために、建設省事務次官通達昭和四四・一二・二三都再発第八七号でも「法定手続に入る前に再開発計画の概要等を関係権利者に十分かつ具体的に周知させ、積極的な協力態勢の確保を得られるように努めること」を要求しており、昭和四八年七月の都市計画中央審議会答申は、住民など関係権利者に対して事前に意向調査をすることが必要である旨を説いている。

ところで、本件地区の再開発計画については、原告ら住民は前記のとおり同志会を結成して、旧法の適用期間の延長をしないこと及び新法による再開発をしないことを求めて、くり返し被告や神戸市に働きかけてきた。その結果、神戸市は昭和五一年一二月一八日同志会に宛てた書面で、「関係権利者の大半の同意をとらない限り、都市再開発法の適用はしない」旨を約束した。そして、住民との話し合いの席でも、たとえ一人でも反対があれば再開発には着手しないと言明するに至つた。右約束は一方的な改変や破棄を許さない拘束力ある手続的制約と解すべきものである。

ところが、本件都市計画決定は、関係権利者の三分の一が本訴提起に踏み切つたことから明らかなように、関係権利者の大半の同意は毛頭得ておらず、右約束に違反するものであり、違法である。

2 原告ら住民は、前述したとおり一〇年余の長きにわたり、市街地改造事業計画を理由として都市計画法上の諸規制あるいは下水道問題のような事実上の不平等をうけてきた。事業が保留にされたまま、一〇年もの間放置された例は恐らく他に例をみない。その事業の施行期間は二度の延長がとられたにもかかわらず、結局昭和五四年三月満了し、且つ現在その事業の必要性が薄弱化したといえこそすれ、何ら強まつたわけでもないのに、住民の同意が得られないまま、再び市街地開発事業を行なう旨の決定をなすことは、行政権の不当な乱用であつて、行政手続として違法である。

3 本件都市計画決定は、兵庫県都市計画審議会における審議に手続違背があり、違法である。

すなわち、知事が都市計画を決定するためには都市計画法第一八条第一項、第二項により都市計画地方審議会の議を経なければならず、付議の際には住民および利害関係人から提出された意見書の要旨を提出しなければならないとされている。ところが、被告は右審議会において本件事業に対する住民の反対は四名しか無いかのごとき虚偽の事実を説明して本件計画の原案を通過させた。

本件都市計画案が審議された兵庫県都市計画審議会は昭和五四年一一月二八日午前一〇時から昼休みをはさんで午後二時三〇分まで開かれたが、同日付議された審議件数は四二件にものぼつた。原告らを含み同志会に参加している住民ら一〇七名は、右審議会の審議に先だち、都市計画法第一七条第二項に基づき昭和五四年一一月九日に同日付の意見書を提出していた。右意見書は、「もし再開発事業がこの地区で実施されれば商店、住人の大半は転出せざるをえないこと、本件再開発事業の理由とする公共施設のうち一部は既に整備済であり、道路の拡幅・駅前広場は公害をもちこむ恐れのあること、高層ビルについては種々のビル災害の不安があること、神戸市のこれまでのやり方は強引であり、市の行なつた家屋の調査測量は違法であること、この度の都市計画決定は話し合いの約束違反であること」を指摘した上で、「之等の違法を平然と行う市当局の事業に吾々は協力出来ないことは勿論、共犯者にもなり度くはない」「住民として全く賛同出来ない計画である」旨が述べられ、再開発に反対である旨を表明している。

ところが、兵庫県当局者は同地方審議会において、「同志会に参加している人も再開発には反対しておらず、事業に対する条件を要求しているにすぎない、右意見書の意見もそのように理解されるべきだ」と虚構の事実を述べ、右意見書の正当な理解を意図的に妨げた。さらに、審議委員から本件都市計画に批判的な意見が出ると、「市が戸別に意見を聞いたところでは、四名だけが反対だつた」とも説明し、あたかも本件都市計画に反対する者が地区内には四名しかいないかの如き説明を行なつた。

しかし、原告らは被告に対する補充の意見書と審議会に対する某委員の審議回避を求める上申書を提出し、前記審議会開催当日には、審議に先だつて一二三名が「当都市計画の撤回を求めます」旨を明記した意見書を提出しているにもかかわらず、兵庫県当局者はあえて前述のように「住民は計画には反対できない」と説明したもので、その瑕疵は重大である。

このように被告は、同審議会において被告及び神戸市に都合のよいように虚偽の説明をなし、あるいは誤解を与える説明をなし、時間的制約による審議不充分に乗じてこれを通過させたもので、重大な手続上の違法があり、本件都市計画決定は取消されなければならない。

五  よつて、原告らは本件都市計画決定の取消を求める。

第三本案前の申立の理由

本件都市計画決定は、抗告訴訟の対象となるべき「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」にあたらないから、原告らの訴はいずれも不適法であり却下されるべきである。

およそ抗告訴訟の対象となるべき行政処分は、行政庁が公権力の発動として行う公法上の行為であつて、これにより直ちに国民の特定かつ具体的な権利義務に直接的・具体的変動を与え、その範囲を確定することが法律上認められているものでなければならない(最高裁昭和三九年一〇月二九日判決・民集一八巻八号一八〇九頁)。

ところで、市街地再開発事業は、「市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、都市計画法及び都市再開発法で定めるところに従つて行なわれる建築物及び建築敷地の整備並びに公共施設の整備に関する事業並びにこれに附帯する事業をいう」ものとされており、(都市再開発法第二条第一号)、本件都市計画決定もかかる見地から公共施設の整備及び建築物の整備等を行うために被告知事が都市計画法第一八条第一項に基づき決定したものである。

本件市街地再開発事業は、神戸市が施行する予定であるが、地方公共団体が施行する場合の第一種市街地再開発事業の手続は、別紙「第一種市街地再開発事業の流れ」<略>のとおりとなる。すなわちその事業の具体化は、〈1〉「都市計画の決定」、〈2〉「事業計画の決定」、〈3〉「権利変換計画の決定」、〈4〉「工事着手」と進むのであり、本件においては、都市計画決定は被告が行い、右決定の確定後、神戸市が右都市計画決定を前提として、事業計画の決定を行うのである。

しかも、右事業計画の決定に至るまでには、訴外神戸市は、条例により施行規程を定め、事業計画を作成し、これを二週間公衆の縦覧に供し、他方、当該市街地再開発事業に関係のある土地又はその土地に定着する物件について権利を有する者は、右縦覧期間満了の日の翌日から起算して二週間を経過する日までに、神戸市に対し意見書を提出することができる。そして神戸市は、意見書の提出があつたときは、その内容を審査し、その意見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは、事業計画に必要な修正を加え、その意見書に係る意見を採択すべきでないと認めるときは、その旨を意見書を提出した者に通知しなければならず、意見書の内容の審査については、行政不服審査法中処分についての異議申立ての審理に関する規定が準用されるのである(都市再開発法第五三条第二項)。

一方、都市計画決定は、市街地開発事業の種類、名称及び施行区域その他政令で定める事項等を定めるもので(都市計画法第一二条第二項、第四項)、右のような事業計画の前提となる一般的、抽象的な定めであつて、原告らの有する権利に直ちに具体的な変動を及ぼすものではない。

すなわち本件都市計画決定は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分性の要素を欠いているものであり、且つ訴訟事件としてとりあげるに足りるだけの事件の成熟性を欠き、従つて本件決定の取消訴訟を許容すべき必要はないのである。

最高裁判所は、昭和四一年二月二三日、土地区画整理事業に係る事業計画決定が抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたらない旨判示したが、さらに昭和五〇年一一月二八日、本件事業に類似する住宅地区改良事業の事業計画の認可についても、これが抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたらないことを明らかにしているのである(最高裁判所民事裁判集一一六号七三五頁)。また、事業計画に先行し、事業計画の前提となる都市計画決定についても、最高裁判所は昭和五〇年八月六日、「土地区画整理事業に関して都道府県知事のした都市計画の決定は抗告訴訟の対象とならないもの」と判示している(同裁判集一一五号六二三頁)。

第四請求の原因に対する認否

一  請求原因一の(一)の事実中、原告らが本件都市計画の対象となつている地区に土地又は建物の所有権もしくは賃借権を有することは知らない。その余の事実は争う。

同(二)の事実は認める。

二  請求原因二の事実中、対象地区内の約一七〇軒に及ぶ商店、住宅を立退かせた後に二二階建高層ビルを建設するとの事実は争う。本件都市計画が昭和五五年末までに事業計画を決定し、昭和五七年二月着工の予定であることは知らない。その余の事実は認めるが、本件都市計画は基本的な青写真であつて具体的事業計画は確定していないのであり、別表添付図面<略>は本件都市計画の内容ではない。

三  請求原因三の(一)の事実中、本件都市計画が形式的には昭和五四年一二月の決定であるが、右計画と内容をほぼ同じくする計画が昭和四四年三月二八日市街地改造法に基づき神戸国際港都建設計画六甲地区市街地改造事業として都市計画の決定(以下、旧計画という。)がなされ、告示されたこと、旧計画が六甲道駅の南北両側を対象としており、南側を第一地区として先に着工し、北側を第二地区としたこと、市街地改造法が昭和四四年六月都市再開発法の制定により廃止されたことは認める。本件都市計画が、昭和四四年被告が一旦計画決定したものの住民、市民の反対により事実上廃棄され、正式にも昭和五四年三月期限切れにより失効した計画を、住民の意向を無視して復活させたものであるとの点及び第二地区としての施行が保留されたとの点は争う。その余の事実は知らない。

同(二)の事実は知らない。

同(三)の事実中、旧計画の事業施行期間(五年間)か昭和四九年一月に三年間延長され、昭和五二年にさらに二年間再延長されたことは認めるが、その余の事実は知らない。

四  請求原因四の(一)の事実中、都市再開発法第三条第三号、第四号の規定内容、神戸市が昭和五〇年に行なつた六甲道駅周辺購買実態調によれば、本件地区の商店に買物に来る客は徒歩で来る人が大半で、商品も食料品、下着類などの日用品、消耗品であることは認める。国鉄六甲道駅の乗降客がこの七、八年の間増加しておらず、市街地改造事業により駅南側に出現したメイン六甲や、六甲道駅構内にできた商店街チヤオのテナントが売上が伸びず経営に苦しんでいることは知らない。その余の事実は争う。

八幡線及び神若線の道路は、本件市街地再開発事業により「新設される公共施設として計画決定されたものではなく、「公共施設の配置及び規模」として、都市計画法第一二条第二項及び都市再開発法第四条により決定されたものである。都市再開発法第四条第二項第一号には、「道路、公園、下水道、その他の施設に関する都市計画が定められている場合においては、その都市計画に適合するように定めること。」と規定されている。これを本件施行区域についてみると、「六甲道駅北側広場」の都市計画は昭和二一年八月一四日に決定され、「神若線」は昭和二四年五月二四日、「六甲道駅前線」は昭和四四年三月三一日にそれぞれ都市計画が決定されている。これらの都市計画については、本件都市計画決定のときも有効な都市計画であり、本件都市計画は、右公共施設の整備、未整備にかかわらず、既に決定されている右都市計画に適合するよう決定したものである。

なお、本件再開発事業により右公共施設につき整備される内容は、「八幡線」の一部としての六甲道駅北側広場の新設整備、「六甲道駅前線」の拡張整備、「神若線」の歩車道等の再整備である。

同(二)の事実中、建設省事務官通達昭和四四・一二・二三都再発第八七号の内容、昭和四八年七月の都市計画中央審議会答申が、住民など関係権利者に対して事前に意向調査をすることが必要である旨説いていること、知事が都市計画を決定するためには都市計画法第一八条第一項、第二項により都市計画地方審議会の議を経なければならず、付議の際には住民及び利害関係人から提出された意見書の要旨を提出しなければならないこと、本件都市計画案が審議された兵庫県都市計画審議会が昭和五四年一一月二八日午前一〇時から昼休をはさみ午後二時三〇分まで開かれ、同日付議された審議件数が四二件にのぼつたこと、原告らを含む同志会に参加している住民ら一〇七名が、右審議会の審議に先だち都市計画法第一七条第二項に基づき、昭和五四年一一月九日に同日付の意見書を提出したこと、右意見書が主張のとおりの内容のものであること、右意見書のほか、被告に対する補充の意見書と審議会に対する某議員の審議回避を求める上申書が提出され、前記審議会開催当日には審議に先だち一二三名が「当都市計画の撤回を求めます」と明記した意見書を提出したことは認めるが、その余の事実は争う。

右補充の意見書とは、昭和五四年一一月一九日付「陳情書」及び「六甲道駅前地区第一種市街地再開発事業についてお願い」と題する書面であつて、意見書ではなく、右各書面及び前記上申書が審議会事務局に書面が到達したのは審議会終了後である。また、右書面及び上申書の提出者は同志会役員である。本件計画案の縦覧期間満了日は昭和五四年一一月九日であり、これらの書面は都市計画法第一七条第二項所定の法定期間を徒過した不適法なものである。

五  請求原因五は争う。

第五本案についての被告の主張

原告らの本件訴は、右に述べたとおり不適法なものとしてすみやかに却下されるべきものであるが、原告らの主張に対し、一応被告は、従前の経緯、本件都市計画決定に至る手続及び本件都市計画決定内容の実質的な合理性のいずれにおいても瑕疵乃至違法性が存在せず、本件都市計画決定が正当であることについて、次のとおり積極的な主張をする。

1  本件都市計画決定に至る経緯について

本件都市計画決定に係る国鉄六甲道駅北側約一・三ヘクタールの区域(以下本件区域という。)を含む同駅南北区域(約三ヘクタール)を対象として、昭和四四年三月二八日旧公共施設の整備に関連する市街地の改造に関する法律(昭和三六年六月一日法律第一〇九号、前掲市街地改造法)に基づく市街地改造事業都市計画決定(前掲旧計画の決定)がなされており、旧計画決定に係る市街地改造事業は、被告が区域の縮少手続をとつた昭和五四年一二月二一日まで効力を有していた。本件都市計画決定は旧計画決定と根拠法令を異にし、都市再開発法に基づき新たに計画決定されたものであつて、本件都市計画決定に至る経緯は次のとおりである。

(一)  旧計画決定は、昭和四四年三月二八日、国鉄六甲道駅付近区域の市街地改造事業を目的として、建設大臣によりなされたものであるが、神戸市は同駅南側を第一地区、同駅北側を第二地区として事業執行計画を立案し建設大臣の事業認可を受けて、第一地区については国鉄高架工事に伴い速やかに事業を執行する必要があり、また地区住民の積極的な協力が得られたため、第二地区に先行して事業を執行したものである。一方第二地区については、一部住民の反対があつたため、事業執行に当つていた神戸市は、住民の大半の合意を得た時点において、事業執行に着手すべく、地区住民との協議を行つていたものであり、事業の施行を保留していたわけではない。

(二)  旧計画決定以来神戸市は、第二地区住民の同意を得るべく、一貫して協議を続けて来たが、本件区域は、都市再開発法第三条各号の要件にも該当し、かつ、補助体系が充実していることから地区住民にも有利であるため、従来の市街地改造事業を変更し、昭和五二年に市街地再開発事業に切り替えるのを適当と認め、本件区域住民に対し、同年八月から、昭和五四年二月にかけて、市街地再開発事業に関する説明会等を開催し、大半の住民の同意を得られる見通しが立つたため、昭和五四年五月に都市計画決定に向けての説明会を行い市街地再開発事業の都市計画決定に踏み切ることとしたのであり、期限切れにより失効した旧計画決定を、住民の意思を無視して突如復活させたものではない。

(三)  旧計画決定と同時に決定された市街地改造事業の「毎年度執行すべき都市計画事業」については、都市計画法施行法(昭和四三年六月一五日法律第一〇一号)第三条第一項、第二項第一号の経過措置規定により、都市計画法第六三条第一項を適用し、昭和四九年一月及び昭和五二年三月に、いずれも事業施行期間を変更したものである。

2  本件都市計画決定の合理性について

本件都市計画決定は、そもそも神戸市総合基本計画に基づく神戸市副都心計画を実現するためなされたもので、右構想は、地方自治法第二条第五項により、同市が、同市議会の議決を経て制定した基本構想であり、地方自治体の行政施策としては最高度の尊重を受くべきものである。

(一)  本件区域の都市再開発法第三条該当性について

都市計画法第一二条第二項の規定により、市街地再開発事業を行うためには、当該区域は、都市再開発法第三条各号の要件に該当しなければならないとされているが、本件区域は、同条各号の要件を全て充足している。

(1) 同条第一、二号該当性については、本件区域は、昭和五四年一二月二一日、都市計画法第八条第一項第三号の高度利用地区に指定されており、また、本件区域には約一五〇戸の住宅・店舗等が存するが、耐火建築物はなく、簡易耐火建築物が二棟あるのみで、そのほかは全て木造建築物であり、本件区域が都市再開発法第三条第一、二号の要件を充たしていることは明らかである。

(2) 本件区域内に十分な公共施設がなく、本件区域内の土地の利用が細分されており、本件区域内の土地の利用状況は著しく不健全である。

本件区域内の道路は神若線を除き区画街路であり、駅前広場も整備されておらず、自動車交通が頻繁であるにもかかわらず歩道が全くなく、通勤通学者、買物客らが歩車道未分離の道路を通行するため交通事故発生の危険性が高い。現在の状態では、道路、駅前広場等公共施設が不充分であるため、歩行者の通行の安全を確保するためにも道路の拡幅、歩道の設置、駅前広場の整備等公共施設の拡充が急務となつている。また、本件区域内における現況建物のうち敷地面積が二〇〇平方メートル(高度利用地区の指定標準)を越える建物は四戸のみであり、土地の利用は細分化されているといえる。

以上のとおり本件区域においては、公共施設が十分でなく、また土地利用状況も細分化されていて、そのため公共施設を新設することも困難となつており、現況のままでは土地利用の改善を図ることはむつかしく、本件区域の土地利用状況は著しく不健全なものとなつている。

(3) 都市機能の回復に著しく貢献することについて

前記神戸市総合基本計画によれば、将来の神戸市全域の都市機能改善を図るため、地域中心核として都心(三宮~神戸)、副都心(六甲、大橋~板宿)及び生活都心を設定するというものであつて、本件区域を副都心にふさわしく整備することは、右基本計画に適合するものであり、本件都市計画決定により、再開発事業が施行されれば、本件区域のみならず、窮極的には神戸市全域の都市機能の回復に大いに寄与するといわなければならない。

また、都市再開発法第三条第四号にいう「当該都市の機能の回復」とは、必ずしも一定区域の再開発により、当該都市全域に、直接かつ具体的な回復効果を及ぼす必要はなく、都市を構成する一定区域の機能回復がなされ、ひいては将来において、当該都市全域の都市機能回復に貢献しうるものであれば足りるというべきである。ところで、本件都市計画決定が施行されるならば、本件区域における交通事情の改善、空間利用の効率化がもたらされ、本件区域内の都市機能が著しく回復されることは明らかであるが、本件区域の都市機能回復により、六甲道地区の副都心計画も促進される状態となり、窮極的には神戸市全域の都市機能改善に寄与するものである。

(二)  本件都市計画決定に基づく市街地再開発事業の必要性について

本件区域における道路の拡充等公共施設の設置、土地利用の細分化に伴う土地利用の不健全さの解消の必要性は、本件都市計画決定の際においても少しも減少しておらず、市街地再開発事業の必要がないとする原告らの主張は失当である。

(1) 本件区域内の公共施設設置の必要性

六甲道駅前線については東海道本線以南は幅員一五メートルに拡幅され、歩車道も分離されているが、東海道本線以北神若線までの延長九六メートルの区間が未整備となつておりこのままでは道路の利用効率が悪く、早急に本件区域内の右九六メートル区間を拡幅して幅員一五メートルとし、東海道本線以南の道路と均当の状態で接合する必要があり、神若線についてもビル建設に備えて、歩道等の改修工事が必要である。また、駅前広場の設置については、都市再開発法においては、駅の乗降客一日当り五万人とする基準の定めはなく、必要に応じてこれを設ければよいのであるが、前記のとおり、国鉄六甲道駅北側道路は、歩行者と自動車の交通が混在し危険性が高く、広場を設置して人車分離を図る必要性がある。

(2) 土地利用の細分化解消の必要性

本件区域内における土地利用状況は、前記のとおり、建築敷地面積が二〇〇平方メートルを超える建物は四戸のみであり、また耐火建物もほとんどない状態であり現況のままでは、土地利用状況は不健全であるというほかなく、土地の高度利用による利用状況の改善が望まれるところである。

原告らは、高層ビル化がなされれば、小規模経営の存在は許されなくなり、またビル維持管理費の支出により採算がとれなくなると主張するが、店舗配置は本件都市計画決定の段階で決められているわけではなく、店舗の種類規模に応じ、入居者の希望に応じて事業計画や権利変換計画の段階で調整すればよいのである。

(三)  人格権、財産権、環境権侵害の主張について

人格権、環境権については実定法上の根拠が明らかでなく、その権利性の内容につき多大の疑問の存するところである。本件都市計画決定の段階において、本件区域住民の離散を予想することはできず、また高層ビルについて火災・地震等の不安があるとの主張も単なる不安に止まるものであり、いずれにしても人格権、環境権侵害についての原告らの主張には理由がない。

次に、原告らは、現段階において数百万円を負担せざるを得ないことが明らかになつていると主張するが、原告らの負担金は、事業計画決定がなされ、その後都市再開発法第八〇条第一項により従前資産の価額が、同法第八一条により施設建築敷地の価額等の概算額が各決定されるのであり、本件都市計画決定の段階においては、原告らの費用負担の有無及び額は不明というほかはない。

3  本件都市計画決定手続の適法性について

市街地再開発事業は地域住民の生活に対する影響が極めて大きく、被告においても、本件都市計画決定に際して地域住民の意見を十分に尊重し、兵庫県都市計画地方審議会における慎重な審議を経たうえ決定に至つたものであり、その決定手続には何らの違法も存しない。

(一)  神戸市は、従来の市街地改造事業を市街地再開発事業に切り替える方針のもとに、同事業についての本件区域住民の理解を得るため再三説明を行つていたが、区域住民の一部の者が構成する反対同志会にあてて、同市都市計画局計画部再開発課主幹名義で送付した昭和五一年一二月一八日付書簡には、「都市再開発法の適用にあつては、御指摘のように、関係権利者の大半の同意をとるよう考えております。」との記載部分があつた。神戸市としては本件区域住民の同意を得て市街地再開発事業を行うことは既定の方針となつており、右記載部分も右方針を表明したものに過ぎないが、その後本件都市計画決定にあたつて意見書を提出した本件区域内の権利者は一七八名中五四名であり、他の権利者は同事業に対し特別の反対意見を有していなかつたため、意見書の提出に至つておらず、かえつて本件都市計画決定後、権利者一二三名が本件事業の早期実現を求める旨の陳情書を神戸市議会へ提出するなどの積極的行動に出ており、むしろ本件区域において、土地建物の所有権賃借権等を有する権利者の大半の同意を得て、本件都市計画決定に至つたのが実情である。本件訴訟に至つた本件区域内の権利者は一七八名中四四名であり、全体の四分の一にも満たないところである。

(二)  原告らは不当に長い間制約をうけ、下水道問題においても不平等な取り扱いをうけた旨主張するが、本件区域については都市計画決定がなされていたため、財政効率化の見地から、下水道法第六条第六号の規定により処理区域とされていなかつたものであり、下水道の整備は都市計画の進行と適合させる必要があつたためである。また市街地再開発事業の必要性については前記のとおりであり、関係権利者の大半の同意を得て、本件都市計画決定はなされたものであつて、行政権の濫用の問題は全く生じない。

(三)  原告らは、兵庫県都市計画地方審議会の手続違背による違法を主張するが、そもそも審議会における手続違背とは、定足数の欠如、欠格者の参加、議事手続規定の違反など審議会の構成、運営に違法がある場合であり、審議会の構成、運営に違法がなく、構成員の自由なる意思により採決がなされた以上、当該審議には何らの瑕疵はなく、当局者の説明のし方、審議に要した時間などは何ら審議手続の瑕疵となりうるものではない。

第六本案前の抗弁に対する原告の反論

一  取消訴訟の対象

1  「処分の取消しの訴え」の対象は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」であると定められている(行訴法第三条第二項)。行政訴訟においては、往々にして、取消訴訟の対象が極めて限られているかの如き主張が、行政側からなされがちであるが、今一度何らの限定をしていない行訴法の右規定を読み返す必要があると考えられる。

その際、わが憲法が行政事件についても国民の「裁判を受ける権利」(憲法第三二条)を保障し、国民は、一切の行政法上の争いについて司法裁判所に出訴し、その裁判をうけることができること(裁判所法第三条)、従つて現行憲法のもとでは行政訴訟の対象について列記主義をとることは許されず、一切の行政庁の行為について出訴を認める概括主義を採つた結果として、前述の行訴法第三条第二項の規定が存在するのである。

2  古く本条の行政処分は、在来の行政法学における公定力を有する行政行為概念と一致するものとしてとらえられ、その結果本条の行政処分とは〈1〉行政主体たる国または公共団体が〈2〉公権力の発動として行なう公法上の行為であり〈3〉これにより国民個人の権利・義務を直接に左右する効果をもつものと理解されてきた。なお、このうち〈3〉の要素の根拠は、行政行為の公定力や抗告訴訟の沿革に求められるようであるが、必ずしも論理的なものではなく(原田尚彦「抗告訴訟の対象について」判タ二六三・二)、かつ、法規の文言からはくみとれない要素である。

3  ところで、伝統的行政法理論においては、自由放任を旨とする警察国家を前提として行政作用は必要悪として意識され、行政権力と国民との接触は、主として行政庁が一般的な法規の執行として行なう個別的な行政行為に限られていた。しかし、現代の国家は福祉国家であることが要請され、行政作用は積極的に国民生活に関与するようになり、その領域は飛躍的に拡大した。

そこで、このような行政の現実から生ずる国民の不利益を適切に救済するために、近時の判例・学説は行政訴訟の対象たる「処分」概念を、古い「行政行為」の概念に限定せずに、拡大する傾向にある。例えば、補助金交付という形式的行政処分についても抗告訴訟が認められ(札幌高判昭和四四・四・一七)、健康保険医療費を値上げした厚生省告示が行政処分であるとされ(東京地判昭和四〇・四・二二)、横断歩道橋の設置も抗告訴訟の対象となりうるとされたこと(東京地決昭和四五・一〇・一四)等々である。

これらのいわゆる形式的行政処分においては〈2〉の「公権力性」の要件や〈3〉の直接的法的効果は希薄であるが、当該行政機関の行為が国民個人の法益に対して事実上の支配力をもつていることをとらえて、裁判所も抗告訴訟を許容してきたものである。

本訴被告が抗告訴訟の訴訟要件として主張するところは、近時の行政訴訟法学の発展とこれら判例の流れを無視した、古い解釈といわざるをえない。

二  行政計画と処分性

1  しばしば指摘されるように、現代は「計画行政」の時代であるといわれるほど、行政において計画の果たす役割は重大である。もとより行政計画と呼ばれるもののなかには、さまざまの内容のものがあり、法律に基づくものもあれば、根拠法規のないものもある。また、法的効果も区々である。ただ処分性を論ずるのに重要な区別は、実効性を担保する具体的な措置を伴わないガイドライン的な「指針的計画」を含め、私人の権利を何ら拘束しない「非拘束的計画」と私人の権利を規制する効果をもつ「拘束的計画」の区別である。本件の如き都市計画は、「拘束的計画」の典型例である。

2  一般的に、行政計画を処分と認めて、抗告訴訟を提起しうるかについては、実は、従来の下級審判例はこれを積極に解していた。例えば、土地区画整理事業計画につき、東京地判昭和三四・六・一八行裁例集一〇・六・一一九五、東京地判昭和三八・四・二五行裁例集一四・四・八八〇、都市計画区域決定につき、東京地判昭和三九・五・二七行裁例集一五・五・八一五などである。

この問題に関する諸外国の例をみると、行政計画はもちろんのこと行政立法自体すら抗告訴訟の対象にできるとしているのである。例えば、西ドイツの行政裁判所法四七条が明文の規定を置き、フランスでは一九〇七年のコンセーユ・デタ判例により政令を含む行政立法に対しても直接に訴訟をおこせることが確定され、アメリカ合衆国でも規則制定も司法審査の対象になるとされている。

また、最近、台湾の司法法院大法官会議では、都市計画につき処分性を認める旨の決定をしたとのことである。

3  ところで、被告が引用する最判昭和四一・二・二三は土地区画整理事業計画の事案について処分性を否定したため、右最判の射程距離や、当該計画についての分析を十分しないまま、あたかも計画と名が付けばすべて処分性が認められないかの如き議論が一部に生じた。しかし、性急な右の議論が誤つていることは、右最判以降も種々の行政計画について処分性を認める多くの判決が出ていることからも明らかである。

本件都市計画決定も次に述べるように、前記最判とは事案の構造を異にし、抗告訴訟が認められなければならない。

三  本件都市計画決定の処分性

本件都市計画の法的性質

(一)  都市計画とは、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための〈1〉土地利用〈2〉都市施設の整備および〈3〉市街地開発事業に関する計画である(都市計画法第四条第一項)。本件は、〈3〉の一つとして、都市再開発法による市街地再開発事業として規定されているものであり、都市計画法にいう都市計画事業として施行が予定されている。

(二)  計画の効力についてであるが、直接の効力としては本件都市計画決定により施行区域内にあつては建築物の建築は許可が必要となり(同法第五三条)、禁止されうるという点(同法第五五条)が重要である。これに違反すると、同法第八一条に定める建築物の除却措置等の命令(監督処分)をうけるところとなり、監督処分に違反すれば、六月以下の懲役又は一〇万円以下の罰金に処せられる(同法第九一条)。

このように、本件のような市街地開発事業に関する計画も、市街化区域及び市街化調整区域のような土地利用に関する計画が地域内での開発行為の規制を受けるのと同様に、私人の権利を大巾に規制する直接的な効果をもつものであり、拘束的計画であるということができる。

2 古典的行政処分概念と本件都市計画

(一) 本件都市計画は、被告が都市計画法に基づきなした都市計画の決定であつて、行政庁の権力的行為であることは疑いがない。

(二) 本件都市計画決定により原告らの権利がこうむる影響について

(1) 第一は、市街地開発事業の一連の法的な手続がはじまつたことによつて、原告らが有する土地・建物の所有権、借地権、借家権などは、まもなくすべて大巾な権利の変換をうけることになる、という点である。

被告は、本件都市計画決定があつたとしても、それは「一般的、抽象的な定め」であつて、未だ原告らに裁判を求める権利を認めるほどでないと主張する。しかし、少なくとも「本件地区において市街地再開発事業を実施すること」が、それまでの行政庁の内部的な構想でなく、正式に、すなわち法的な根拠に基づき決まつてしまうのである。なかには殆んど影響をうけない人もありうる土地区画整理事業等の場合と異なり、立体換地方式と言われる都市再開発事業においては、住民は一人残らずその土地、建物を原状のまま有することは許されず、すべて激しい権利内容の変更をうける。しかも、平面換地方式の場合は、特定の土地について場所を変えるなどの部分的な解決方法が考えられるが、都市再開発の場合は、後の時点では影響を免れるということは全くといつて困難である。従つて、都市再開発事業の実施が明確に決められたというだけで、決定に違法性が認められれば、当然裁判所で判断してもらうことが許されるべきではなかろうか。

しかも本件都市計画決定は、単に事業の実施だけを決めているのではない。その後更に具体化される事業計画や権利変換計画に比べれば、一般的、抽象的であるとしても、内容が白紙なわけではなく、対象地域、整備される公共施設の種類、規模、配置、例えば、道路の幅員、長さ、広場の面積、建築物の面積なども具体的に決められており、その後の一連の法的手続(事業計画や権利変換計画)はこの都市計画決定に従つて行なわれることを見落してはならない。

従つて、事業計画が縦覧に供された際に、「都市計画においてすでに定められた事項については、意見書を提出することはできない」(建設省都市再開発課職員執筆による財団法人都市計画協会刊「市街地再開発事業の手引」六九頁同旨)とされている。都市計画は、事業計画のための単なる構想ではなく、それ自体根幹を決める重大な決定である。いわば、事業の決定は都市計画決定に尽きており、事業計画の作成や施行規程の制定は、その次の段階である事業を「施行」(実施)するための準則といえよう。

ちなみに事業計画や権利変換計画に対しても意見書の提出が保障されているが、法は施行者が意見を採択すべきと認めたときでも計画を「修正」することしか認めていない(都市再開発法第五三条第二項、第一六条第三項、第八三条第三項)。これは、事業が既にこの段階では施行の段階に入つていることを前提としているからであろう。

以上述べたように、原告らの権利状態が現実に変更されるのは、都市計画決定時より遅れるが、それは一連の法的手続に要する時間のためであつて、本件もこのままでは特段の支障がない限り、あらかじめ定められたところに従つて手続は進められ、計画中止の変更決定がない限り、まもなく事業は実施されるのである。

現に被告及び神戸市は、昭和五四年一二月の本件都市計画の決定の際、一年後の昭和五五年一二月に事業計画決定まで進め、昭和五六年一〇月には権利変換計画決定をなす予定をしている。

(2) 次に、本件都市計画決定により原告らが即時、直接的に被る影響については、前記1項及び前記第二の三の(三)において述べたとおりであるが、原告らの具体的損失は次のとおりである。

イ 建築規制について

原告らは都市計画法第五三条、第五五条による建築規制を昭和四四年以来うけている。そのうち昭和五四年三月三一日までは、さらに厳しい規制である同法第六五条に基づく建築等の制限をうけていた。家が古くなり、あるいは子供が大きくなり自宅の建替や建増しの必要が出た原告や、あるいは店舗、医院等の建替え、建増しを計画した原告は多い。ところが、原告らの問い合わせに対しても許可は出ない旨の回答があり、神戸市は説明会においても原告らにその旨の説明をしていた。また原告らに対しても、すぐに事業が着工されれば投資も無駄になる恐れがあつて、結局原告らは断念してきた。そして、旧市街地改造法による事業計画について、一日の空白もなく被告が本件都市計画決定により建築規制を課したため、再び原告らは建築断念のやむなきに至つている。そのため店舗の場合には、売上げを伸ばせない等の二次被害もうけている。

ロ 下水道の未整備について

今日の市民生活においては、下水道は不可欠であり、神戸市でも既成市街地は殆んどすべて下水道整備が終つており、人口普及率で八二%(昭和五三年度)と整備は進んでいる。そして下水管のある家の九七%が水洗便所となつている。原告らの地区の隣りでは、既に八、九年も前に下水道の整備が終つている。にもかかわらず、原告らの地区、すなわち本件都市計画決定の対象区域だけが、下水道整備現況図の中に空白の一画として取り残されているのは、本件都市計画決定があるからに他ならない。

下水道法第六条第六号は、公共下水道の事業計画を定めるときは、当該地域に定められている都市計画に下水道の配置及び工事の時期が適合していることを要求している。ただ本件地区は、右事業計画の中では予定処理区域とされているが、計画実施の段階でも右規定の立法趣旨は尊重されるべきこと、及び実質的には二重投資を避けるという理由(再開発事業の実施により配管がムダになる)から、本件地域だけが下水道の処理区域からはずされているということのようである。つまり、本件都市計画決定さえなければ、下水道局には下水道整備に着手しない正当理由はなく、整備がされるのである。

なお、下水道の整備を求める要求が、法的な権利として認められ、且つ、行政庁が主張する右のような正当理由が排斥されたとしても、裁判所が義務づけ訴訟を許容されない限り、下水道問題だけを取り上げての司法救済は困難ではなかろうか。だとすると、原告らが現実にうけている不利益は、本件都市計画決定の取消訴訟を認めることによつてしか救済されないのである。

そして具体的には、下水道がないため便所の水洗化ができず、下快・不衛生であるうえ、飲食店、美容室などでは客への悪影響がでており、医院でも困つている。また、台所などの家庭雑排水も路端の溝を流れており、悪臭、ネズミが多いなどの点で不衛生である。

ハ 土地の先買いに伴なう被害について

都市計画決定があると、県や市は土地の先行買収が可能となるため(都市計画法第五六条、第五七条)、借家している原告らに対して優遇税制を利用しようとする家主から、あの手この手の立退き工作をうけている現状にある。それでなくとも借家人等零細権利者は事業においても十分な保護が図られていないため、不安な日々をおくつている。また、すでに先行買収された土地が生じているが、空地になつた周りの民家は用心が悪くなり困つている。

ニ 以上のとおり市街化区域及び市街化調整区域に関する都市計画決定の場合や、地域地区に関する都市計画決定の場合が専ら静的な形態での建築制限などにとどまるのに比べ、再開発の都市計画決定は急激な変革をもたらす再開発事業の実施が目前に近づくだけに、実際には一切の建築行為が事実上断念されるなど、影響度は数段大きいといえる。また、下水道の整備が中止してしまうような他の行政サービスに与える影響もある。土地の先買いに伴なう被害などは、一連の法的手続からなる行政作用の場合に特有のものであろう。

従つて、市街地開発事業の都市計画の場合は、単なる区域指定の都市計画の場合よりも、私人に対し与える法上及び事実上の影響は大きいというべきである。

また市街地再開発事業の計画が実施されれば、原告らの財産、生活、営業は根本的に変化することになり、原告らの人格権、財産権等が侵害されることとなるのである。

このように、本件都市計画決定は、従来の我が国における古典的行政処分概念からしても、その要件を満たし、取消訴訟の対象になると言わなければならない。

3 最判昭和四一・二・二三と本件都市計画

本件と最高裁昭和四一年判決(あるいは類似の最判昭和五〇・八・六)の場合とは事案を異にするものである。

すなわち、第一に最高裁判決の事例は、土地区画整理事業の事例であるところ、本件は都市再開発事業に関するものであるという点である。土地区画整理事業は、相当の長期間を前提にしてなされる市街地の造成事業であるが、最終的にどのような権利の変動をうけるかは仮換地又は換地処分等が現実になされるまでは必ずしも明確でなく、また関係権利者のうちには、ほとんど権利変動を受けずに終わる者もないわけではない。他方都市再開発事業は、土地所有権も、建物所有権も権利変換手続の名の下に高層建物の一部を取得する権利や、敷地の共有持分等に変えてしまうもので、地域の環境は激変し、権利変動を受けずに終わる者というのはあり得ない。このように権利者への具体的影響を与える度合いが両者は同一でない(従つて「青写真」性の程度も異なる。)。

第二は、右最高裁判決は土地の所有権との関連で土地区画整理事業計画の行政処分性を否定したものであるが、本件で原告らが被侵害利益として問題としているのは計画決定により建物の建築等に制限をうけることと並んで、再開発により環境が激変し、事後的救済が不可能で且つ地区内住民に一様に影響を与える侵害行為との関連で行政庁の行為の行政処分性を問題にしている点である。従つて、本件は前記最高裁判決の射程距離外にあるというべきである。

4 本件都市計画が処分性を有するかどうかは、あくまでも本件事案すなわち国鉄六甲道駅前地区の市街地再開発事業都市計画決定がどうかという形で検討されなければならない。「計画」という名称が付くから、具体性のない、単なる青写真にすぎないとする主張は、この一〇年に及ぶ本件都市計画にまつわる経緯を無視したものである。本件都市計画には、被告と神戸市が一〇年以上もの間原告らの反対を知りながら、実現を目ざしている再開発事業の「実態」がある。

さらに、本件都市計画決定の違法性の一つは、「原告ら住民の同意がない限り、再開発には着手しない」旨の約束に違反した点及び都市計画審議会における手続違背の点であるが、これらの点についての違法性の判断は現在の段階でも十分に可能である。そして、今可能な判断なら、手続が進んだ先よりも今の段階で明確にされる方が、関係権利者及び施行者の双方にとつて望ましいといえる。

そして被告が主張するように、争訟成熟性の名の下に、本件のような市街地再開発事業計画の決定手続について明白な違法があろうとも、権利変換処分を受ける等の段階まで、常に拱手傍観しなければならないとするならば、それは出訴権を不必要に制限するものといわざるを得ない。また今日の国民の裁判に対する常識にも合致しないものである。

第七被告の本案についての主張に対する原告らの反論

一  旧計画決定と本件都市計画決定との関連について

(一)  本件都市計画決定の違法性は、それまでの旧計画決定の存在と切り離して論じることはできない。

すなわち、昭和四四年三月の旧計画決定とくに駅北側についての計画部分は、市街地改造事業として極めて問題が多く、そのため一〇年もの間事業は棚上げにされたが、この間原告らはいたずらに建築制限や下水道の未整備等の不利益のみをうけてきた。

被告は「都市計画は廃止(変更)手続きを取らない限り、効力は永久的に存続する」というが、いわゆる市街地開発事業の都市計画の場合に、極めて長期にわたつて事業の執行がなされず、住民に対する権利制限のみが続くということは許されないことである。例えば、ドイツでは、現状変更禁止が長期間にわたるときには、収用類似の侵害となると考えられており、法律で以て現状変更禁止が四年を超えたときには、土地所有者は損失補償が請求できるとされている(連邦建設法一八条)。

わが国の都市計画法及び都市再開発法においても、都市計画事業の事業施行期間は「適切」なものであることが要請されている(都市計画法第六一条、都市再開発法第一七条)。本件旧計画決定の如く、一〇年以上も放置されたときは、司法救済として事業計画自体が廃止されたことの確認が認められるべきであつたといえよう(あるいは二度目の延長決定が取消されるべきであつた。)。

原告らが本訴で取消を求めている直接の対象は、昭和五四年一二月二一日それまでの旧計画決定を廃止し、同日なした新しい都市計画決定であるが、原告らのおかれていた一〇年に及ぶ不当な権利制限を考慮するならば、本件都市計画決定は新法及び都市再開発法のもとにおいてなすべきでなかつたのであり、これを強行したという点において他の点を論ずるまでもなく、まず違法である。

(二)  なお被告は、旧計画決定は旧法と市街地改造法を根拠としており、他方本件都市計画決定は新法と都市再開発法を根拠にしているから、両者には法的な意味での関連性や連続性がないと主張する。しかし、これは意味のない形式論である。

すなわち、両決定が同時期になされた場合には、被告の立論が意味をもつこともあろう。しかし本件では旧計画決定の根拠とされた法律が一〇年後の本件都市計画決定のときにはすでになく、駅前再開発という同種の目的を達成するための都市計画決定をなすには、新法と都市再開発法によるしかなかつたのである。根拠法を異にする点に、それ以上の意味を持たせるべきでない。旧計画決定と本件都市計画決定とが法的な評価において関連性を有するかどうかは、もつと実質的・具体的にみなければならない。法体系において、都市再開発法は市街地改造法と防災建築街区造成法の二法をうけて出来たのであつて、都市再開発法の施行と同時に市街地改造法は廃止されたのである。

そして、事業の目的・内容においても、まず一般的にいつて「市街地改造事業は、都市再開発法にいう市街地再開発事業のなかに含まれているということができる」ものであるうえ、本件の場合具体的に比較してみても、新旧両事業の内容は極めて類似している。

そして、本訴で関連性を否定する被告自身が、本件都市計画決定を告示した当時に、旧計画決定を廃止する理由は、「六甲地区市街地改造事業のうち、……北側地区は未整備であり当該地区を第一種市街地再開発事業に切替えて施行する」ためであると明言しており、旧計画決定(その廃止)と本件都市計画決定とが不即不離の関連をもつことを認めているのである。

このように、両決定は根拠法においても、事業の目的・内容においても時間的な連がりの点においても関連性と連続性を有する。

二  本件都市計画決定の手続について

1  公共施設について

市街地再開発事業とは、「市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、都市計画法およびこの法律で定めるところに従つて行なわれる建築物及び建築敷地の整備並びに公共施設の整備に関する事業並びにこれに附帯する事業」(都市再開発法第二条)であり、事業の施行要件として「当該区域内に十分な公共施設のないこと」が要求されている(同法第三条)。

従つて、都市再開発法第四条にいう、市街地再開発事業に関する都市計画において定められるところの「公共施設の配置及び規模」とは、当然、右市街地再開発事業により「整備」される公共施設でなければならない。従つて、整備の済んでいる八幡線及び神若線を本件都市計画決定にとり入れたのは、違法であるといわざるを得ない。

2  都市計画審議会への書面提出について

原告らは、都市計画審議会の審議に住民の意見が正しく伝えられ、不適格者を除いた委員による公正な審議のなされることを期待して、意見書以外に三通の書面を昭和五四年一一月一九日に県庁において知事室長深井辰三に金尾都市計画審議委員立会いのもとで手交し、深井室長は「都市計画審議会の担当である戸谷松司副知事にすぐに渡しておく」と確約されたものである。仮りに審議会事務局への到達が被告内部の手落ちで遅れようと、被告には原告らの強い反対の意向が審議会開催の前から十分に伝えられていたというべきであり、これを審議会に正当に伝えず、むしろ住民の反対は四名しかいない如き説明をなした被告の責任は免れえない。

第八証拠 <略>

理由

一  被告が昭和五四年一二月二一日都市計画第法一八条第一項に基づき兵庫県告示第三〇六七号をもつて六甲道駅前地区第一種市街地再開発事業都市計画決定をし、同日その旨告示したことは当事者間に争いがない。

二  原告らは、本件都市計画決定が違法であるとしてその取消を求めているので、本件都市計画決定が抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたるか否かについて判断する。

一般に、取消訴訟の対象となる処分といいうるためには、当該行為が個人の法律上の地位ないし権利関係に対し直接に何らかの影響を及ぼすような性質のものでなければならないと解される。そこで、本件都市計画決定が右のような性質を有するものであるか否かを検討する。

(一)  本件都市計画決定は、都市計画法第一二条第一項第四号、都市再開発法第六条第一項に基づき、都市計画事業として施行する市街地再開発事業に関するものである。都市再開発法第二条第一号によれば、市街地再開発事業とは、市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、都市計画法及び都市再開発法で定めるところに従つて行われる建築物及び建築敷地の整備並びに公共施設の整備に関する事業並びにこれに附帯する事業であつて、都市計画法及び都市再開発法等の規定する右事業の一連の手続は、大要次のとおりである。

市街地開発事業に関する都市計画には、市街地開発事業の種類、名称、施行区域、施行区域の面積を定め(都市計画法第一二条第二項、同法施行令第七条)、都市計画は総括図、計画図及び計画書によつて表示する(同法第一四条第一項)。都市計画の決定、告示をしたときは右都市計画の図書を公衆の縦覧に供しなければならない(同法第二〇条第一、二項)。次いで、市街地再開発事業の施行者である地方公共団体は、右事業の施行にあたり施行規程及び事業計画を定める(都市再開発法第五一条)が、右施行規程は当該地方公共団体の条例で定め、その記載事項は、市街地再開発事業の種類及び名称、施行地区に含まれる地域の名称、市街地再開発事業の範囲、事務所の所在地、費用の分担に関する事項、市街地再開発事業の施行により施行者が取得する施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等若しくは建築施設の部分の管理処分の方法に関する事項、市街地再開発審査会及びその委員に関する事項等である(同法第五二条)。事業計画を定めようとするときは、当該事業計画を二週間公衆の縦覧に供しなければならず、当該市街地再開発事業に関係のある土地又はその土地に定着する物件について権利を有する者は、縦覧に供された事業計画について縦覧期間後二週間内に当該地方公共団体に意見書を提出することができる(同法第五三条第一、二項、第一六条)。事業計画には、施行地区、設計の概要(これを定めるについては、都道府県知事の認可を受けなければならない。同法第五一条)、事業施行期間及び資金計画を定め(同法第五三条第四項、第七条の一一)、地方公共団体は事業計画を定めたときは遅滞なく市街地再開発事業の種類及び名称、事業施行期間、施行地区等の事項を公告し、施行地区及び設計の概要を表示する図書を建築工事の完了の公告の日まで公衆の縦覧に供しなければならない(同法第五四条、第五五条、第五三条第三項)。右事業計画の決定の公告があつたときは、地方公共団体は施行地区内の宅地及び建築物並びにその宅地に存する既登記の借地権について、権利変換手続開始の登記手続をする(同法第七〇条第一項、第六〇条第二項第四号)。権利変換を希望しない旨の申出の受理(同法第七一条)、施行地区内の土地、建物等につき土地調書及び物件調書の作成(同法第六八条)を経て、地方公共団体は、地区内の土地、建物所有者、賃借人等の権利関係者の権利の消滅、取得等を内容とする権利変換計画(同法第七三条)を作成し、これを二週間公衆の縦覧に供する。この場合は、あらかじめ縦覧開始日、縦覧場所、縦覧時間を公告するとともに、施行地区内の土地又は土地に定着する物件に関し権利を有する者にこれらの事項を通知しなければならず、右関係権利者は縦覧期間内に権利変換計画について地方公共団体に意見を出すことができる(同法第八三条)。権利変換計画は市街地再開発審査会の審査、議決、知事の認可を経て公告し、関係権利者に関係事項を通知する(同法第八四条、第七二条、第八六条)。権利変換計画において定められた権利変換期日に権利の消滅、取得等の変換を生じ(同法第八七条以下)た以後、権利変換の登記(同法第九〇条)、土地の明渡(同法第九六条)、建築工事、清算手続等を経て再開発事業が終了する。

(二)  右に述べたところによれば、市街地再開発事業は、都道府県知事の都市計画決定(本件都市計画決定はこれに当る。)により当該事業の種類、名称、施行区域及びその面積が定められ、次に、施行者たる地方公共団体が定める事業計画により施行地区及び設計の概要が定められ、そのうえで、当該地方公共団体において定める権利変換計画に基づいて権利変換に関する処分が行なわれる、という順序で進展することになる。したがつて、市街地再開発事業は、これを全体としてみれば、施行区域内の土地、建物の所有者等の権利に重大な変動をもたらすものであるといえる。

しかしながら右都市計画決定は、その自体としては、特定の地域について都市計画として市街地再開発事業を施行することを決め、爾後進展する手続の基本となる事項を一般的抽象的に定めるにすぎないものであつて、それはもとより特定の個人を対象としてなされるものではない。右決定と同時に、総括図、計画図及び計画書(本件都市計画決定における計画書の内容が別表<略>記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。)において都市計画が表示されるけれども、それも計画の大体の輪郭を示すに止まるものであり、これによっても当該事業の施行の結果施行区域内の関係権利者の権利義務等にいかなる変動が生じることになるかが具体的に定められるものではない。したがつて、その意味においては、右都市計画決定は、個人の法律上の地位ないし権利義務に影響を与えるような性質のものではないというべきであり、また、特にその段階で取消訴訟を提起しうることをうかがわせる法律の規定も存しないから、それは取消訴訟の対象となる処分には当らないといわなければならない。

原告らは、市街地再開発事業の決定は都市計画決定に尽きており、都市計画決定がなされればすでにその段階で市街地再開発事業は施行の段階に入るのであつて、その後の一連の手続は特段の支障がないかぎりあらかじめ定められたところにしたがつて進められる結果、施行区域内の土地、建物の権利者は、権利変換処分等によつてその権利に重大な影響を受けることになる、しかして、それは、土地区画整理事業の場合のように、相当長期間を要し、殆んど影響を受けない人もありうるのとは異なり、立体換地方式といわれる市街地再開発事業の場合には、早い機会にすべての土地、建物の権利者に激しい権利内容の変更を受けさせるものであるから、都市計画決定についても取消訴訟が認められるべきであると主張する。しかしながら、事業計画や権利変換計画の決定が、あらかじめ定められたところにしたがつて進められる手続などといいうるものでないことは、その決定の手続や基準を定めた都市再開発法の諸規定(特に、事業計画については第五一条第一項、第五三条、権利変換計画については第七二条第一項、第七四条、第八三条、第八四条等参照)に照らしても明らかである。のみならず、右都市計画決定が爾後になされるべき具体的権利変動を目的とする処分の基礎となるというだけの理由で取消訴訟の対象となることを肯定することはできない。何故ならば、本件のように行政庁の複数の行為が一連の手続を構成する場合においても、行政事件訴訟法にいう取消の対象となる処分は、法律に特別の定めがないかぎり、その一連の手続を構成する個々の行為のうち、個人の権利義務に直接関係のあるものに限られる(もとより、その行為の取消を求める訴訟においては、当該行為の前提となつた行為の瑕疵を取消事由として主張することができる。)と解すべきであるからである。そして、このように解しても、都市計画決定が違法であるとする者は、続く行為によつて直接その権利関係に影響を受けた段階において、当該行為の取消を求める訴を提起し、その前提となつた右都市計画決定の瑕疵を主張することができるのであるから、違法な行為による権利の侵害に対する救済に欠けることにはならない。しかして、土地区画整理事業の場合と市街地再開発事業の場合との間に原告ら主張のような差があるとしても、そのことの故に両者間において右の理を異にすべきことになるものではないし、右に述べた都市計画決定に続く手続過程にかんがみ、また、仮に都市計画決定が行政処分であつて取消訴訟の対象となりうると解すると、施行区域内の利害関係人において、いかなる具体的な権利侵害が生じたか確知しえない状態のまま出訴期間が進行して都市計画決定が確定してしまい、爾後の具体的処分を受けた段階においては、もはや都市計画決定についての取消事由たる瑕疵を主張しえなくなるため、かえつて救済の方途を失うという結果を招来するおそれもあることを考えれば、特に市街地再開発事業に関する都市計画決定についてはその段階で取消訴訟の提起を認める必要があると解することもできない。

(三)  さらに、原告らは本件都市計画決定による原告らに対する直接の影響として、建築規制による損失、下水道の未整備による不利益、土地の先買いに伴なう被害等が存在する旨主張する。

都市計画の決定、告示がなされると、都市計画施設の区域又は市街地開発事業の施行区域内において建築物の建築をしようとする者は、原則として都道府県知事の許可を受けなければならず(都市計画法第五三条第一項)、許可を申請した場合にも、当該建築が都市計画施設若しくは市街地開発事業に関する都市計画に適合する等所定の要件に該当しない場合は不許可となる可能性があり(同法第五四条)、その違反に対しては是正が命ぜられ、右命令の違反について罰則の規定がある(同法第八一条第一項、第九一条)などの制限があるが、これらは都市計画決定の目的とする直接の法律的効果ではなく、都市計画決定に基づく事業計画の円滑な遂行に対する障害を除去するための必要に基づき、法律が特に付与した付随的なものであり、しかも、制限された行為を行なう具体的な意思の有無を問わず利害関係人一般に対して生じる性質のものであるから、このような法的効果があるからといつて、都市計画決定の一般的抽象的な前示性質が左右されるものではない。

ところで、本件都市計画とほぼ内容を同じくする計画が、昭和四四年三月二八日市街地改造法に基づき、神戸国際港都建設計画六甲地区市街地改造事業として都市計画の決定がなされ、同日、建設省告示第七六六号として告示されたこと、右計画は、本件都市計画の対象区域を含む国鉄六甲道駅の南北両側を対象区域とするものであること、右計画の事業施行期間(五年間)は昭和四九年一月兵庫県告示第一六九号により三か年延長され、昭和五二年さらに二か年の再延長がなされたことは当事者間に争いがない。

本件都市計画は実質的に右計画を引継いだものであり、従つて、前記の建築規制も右計画の決定告示以来継続していることになり、施行地区住民に対するその長期にわたる影響、不利益の事実は否定できないが、それは、事業施行の遅延がもたらす事実上の結果であつて、都市計画決定の効果に質的変化を与えるものではないから、建築規制についての前記判断に影響を及ぼすものではない。

本件都市計画の対象区域内の公共下水道が未整備である点については、本件都市計画において神戸市公共下水道計画に合わせ別途整備することとされており(別表<略>参照)、本件再開発事業の施行に伴い整備することが予定されている関係上いまだ整備に着手されていないものと考えられるが、かかる状態は必ずしも本件都市計画決定の必然的結果であるとはいえないのみならず、単に事実上の結果であるにすぎない。

また、土地の先買いに伴う原告ら主張の被害が発生するとしても、それは、都市計画法第五六条、第五七条に基づく地方公共団体による土地の先行買収に際しての偶発的、間接的な事実にすぎないものである。

従つて、原告らの右各主張に関する点はいずれも本件都市計画決定が取消訴訟の対象としての処分性を有することの根拠とすることができない。

三  以上の次第で、本件都市計画決定は取消訴訟の対象とはなり得ないものであるから、原告らの本件訴をいずれも不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 富澤達 松本克己 鳥羽耕一)

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